まずは、父の重要無形文化財 各個保持者認定に際しての皆様からのご祝意、大変嬉しく、この場を借りて心よりお礼申し上げます。
ありがとうございます。
さて、5年ぶりの大阪、暑さと人の多さにうだりながらも、その熱気にどこか浮かされながらも楽しい日々を過ごしておりました。
今月の松竹座は開場100周年を寿ぐめでたい舞台。
昼の部の序幕には歌舞伎ではお馴染みのおめでたい曽我物、『吉例寿曽我』で大磯の虎を勤めさせていただきました。立女形格のお役、傾城としての大きさ、華やかさ、そして十郎・五郎兄弟への情のようなものを少しでも醸し出せたらと思い勤めておりました。
拵えは殆ど『対面』と同じですが、帯だけがまな板帯ではなく鮟鱇帯になっていて、少し簡素です。
タイトルロールでもあり、物語を引っ張る、主役と言っても過言ではない泉屋の芸者おきちを勤めさせていただきました。
元々この作品は十七代目勘三郎のおじさまの女方を見た村上元三先生が、おじさまに芸者をやらせてみたいと言うところから1961年に書かれ、正月公演で初演されたものです。
その時一度きりの上演だっものを、初演から45年後の2006年に8月の納涼歌舞伎で福助兄さんが上演されました。
その際、新派の齋藤雅文さんが補綴と演出に入られ、台本や演出に手が加えられ、今回も同じ形での上演です。現行上演の形と、初演時との違いとしては、舞台の季節が夏でなく正月であったり、“狐の屁”というあだ名が出てこなかったり、おえんの出番が座敷だけでなくその後もちょこちょこ出てきていたり、お杉のことを妹と勘違いしなかったり……。
簡単に書くだけでもかなり違いがあるんですよ(笑)
今でこそ色々な歌舞伎作品に関わられているお馴染みの齋藤さんが、初めて歌舞伎の演出をなさったのがその時だったそうで、色々思いがおありになったようです。
今回、勤めさせていただくにあたり、6月の終わり頃、2人きりで色々と相談させていただきました。
そそっかしくて、早とちり。惚れっぽくて、気風のいい父親思いの吉原芸者。
1時間強の舞台の中で勘違いばかり、人の話を聞かずに進むすれ違いでの面白さが魅力です。
ですが、その中にあるものはおきちという人が“嘘がない”、と言うこと。
いつだって真剣に腹を立て、涙を流し、大喜びをする。
常に真正面から真っ直ぐに物事に向き合う。だからこそ、憎まれず、愛すべき人としてみんなに親しまれているのでしょう。
更に、この体質は突然変異ではなくて、「この父にしてこの娘あり」と言うこと。
長年苦労をしてきたお杉と、おきちの父親三五郎がいい仲になっていくのも、おきちが落ちぶれた殿様に惚れて匿うのも、根本的には薄幸そうな人に弱い親子、と言うことになるわけです。
ことによったら、親類の借金を肩代わりした三五郎の行動も、そんな父親のために芸者に売ってくれと自分から言ったおきちの行動も理屈は同じなのかもしれませんね。
誰かに惚れた時に演出効果として鈴の音が入り、ご覧のように手が狐になってしまいますが、あくまでもそれは喜劇としてのスパイスとして。
おきちがどう言う原理原則で男に惚れているのかと言う事の方が大切なんです。
こう言った事を踏まえて、とにかく上機嫌の良い女で、だけれど娘っぽくならない声の調子で、お前さんの思う江戸の粋な芸者の理想的な姿で、言葉を大事に相手にしっかり渡して……。
などなど、齋藤さんと2時間かけて話し合い、軽く本読みなどができた時間があったおかげで今回短い稽古期間の中でもどうにか幕を開けられ、千穐楽の今日まで勤めることができたのだと感じています。
拵えは福助兄さんがなさった時とほとんど変えず、夏物の涼しげな物。
最後の衣裳だけは、幸四郎兄さんが着られるものとの兼ね合いや、きっぱりした色味で終えても良いのかなと感じて変えさせていただきました。
今回は私をはじめ平成世代のメンバーが中心となり、お弟子さん方も活躍。
幸四郎兄さんがそれをまとめ、鴈治郎兄さん、扇雀兄さん、孝太郎兄さんが要所要所を締めてくださいました。
さらに、前回お勤めになった福助兄さんも気にしてくださり、是非見たいからと言ってくださったので初日の動画を見ていただくことができました。
本当にありがたいことです。
何より、幸四郎兄さんが、「蝶ネクタイのないあなた」という独特すぎる言い回しで私にピッタリで、やりたかったと声をかけて下さったことが本当にありがたく、引っ込みで背中姿に声をかけるところは毎日感じ入るものがありました。
初演から61年、再演から17年、上演の間隔は狭まってきていますので、近いうちにまた勤めさせていただけたら、嬉しいなと思っております。
有終の美を飾れるように、最後まで品は保ちながらもお客様に楽しく帰っていただけるように勤め上げたいと思います。
最後になりましたが、皆さんも人の話はキチンと聞きましょう(笑)
米吉でした。
お疲れさまでした。今回の松竹座、仁左衛門俊寛と吉原狐の米吉さんの評判を目にして、やはり行こうと東京から飛んで見に行きました。上方歌舞伎を見るのは初めてなので、俊寛の演出の違いやら、興味深かった。東京では物静かな、綺麗な、お姫様か、幸薄い女性の役を見ていた私、吉原狐なおきちには、まず声の張りからびっくりした。色々な役柄を演じられる今後も期待できる役者さんになっているなぁと、感心しました。
こうやってお疲れの中、詳しくメールを寄越して頂くのも、舞台を見た時にはとても参考になり、感謝してます。
この暑さに負けず、益々のご活躍を、歌六さんと共にお祈り申し上げます。
歌六さんの、重要無形文化財 確個保持者認定おめでとうございます。
7月は「米吉さんの主役!」に、思い切って大阪松竹座まで遠征しましたが、観劇直前の、伊丹空港発のリムジンバス車中で、歌六さんのおめでたいニュースを知りました。
大磯の虎の凛とした美しさ、おきちさんの賑やかで、可愛らしい様の両方を、拝見できて、大満足で帰路につきました。
夜の部は2階席でしたが、よくとおる米吉(おきち)さんの声ははっきりとして、とても聴きやすかったです。
9月の雪姫も、楽しみにしております。
暑い日が続きます。歌六さん、米吉さん、お身体大切に。