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米吉ブログ

3度目の八月

 


 

まずは、先月の新型コロナウイルスに罹患に際し、多くの御見舞いをいただいたこと、この場を借りて心からお礼申し上げます。

大変に励みになりました!
ありがとうございましたm(_ _)m

 

さて、今月の歌舞伎座の第二部にて『安政奇聞佃夜嵐』が上演されています。

実に35年 ぶりの上演となる作品ですが、正確には49年 ぶりの上演です。

というのも、35年前 の脚本と49年前 の脚本は違っていて、今回は49年前 の脚本で上演しているんです。

そもそもこの作品は実際の脱獄事件を題材に書かれ、大正年間に初代吉右衛門六代目菊五郎、両名優によって初演されました。

約半世紀前、先の松緑のおじさまの青木貞次郎 勘三郎のおじさまの神谷玄蔵 で上演された際に、巌谷槇一さんがアメリカの西部劇映画から「金鉱」や「子別れ」のくだりを思いつかれ、書き足して上演したのだとか。

私の勤めているおさよ の役は、49年前 の上演時にのみ登場していて、いうなれば私が2度目のおさよ 役者、ということになるんですね。その際に巌谷さんが台本にこんな前書きをされていて、今回の台本にも書かれています。
台本に前書きが書かれていることも珍しいことですし、拠り所とすべきところでもあります。こちらがそのおさよ 

こうした拵えの世話の女房は初めての役柄です(•‿•)

宿場女郎として奉公の最中に青木貞次郎 に出会い、身籠り、年季が明けてからは病の娘 お民 を抱えて、父親の義兵衛 のもとで家族3人慎ましく暮らしています。江戸へ行ってしまった貞次郎 への想いは片時も失っておらず、毎日陰膳を据え、6年もの間、夫の帰りを待ち続けている健気過ぎる女性で、庄屋の息子に下心を持たれるほど、貧の中にいても瑞々しさを失っていない女性でもあります。

前回の上演の際は先代の門之助 のおじさまが勤められていて、その時の録音と写真を頼りに、一から今回の舞台を組み立てていきました。所々自分の考えを入れたところもあり、例えば雪の中を出かけていく中、前回は傘を持ってらしたようなのですが、今回は宿場にいた女だった過去から、少し色気を持って、ご覧のように手ぬぐいを吹き流しにかぶってみました。

おさよ の出てくる場面は義太夫も入り、芝居の中でも山場と言える場面。
この作品は大川を渡る写真だけしか知りませんでしたので、まさかこれほど劇的な展開が待ち受けているとは……(笑)残りもしっかりと勤め、この珍しい作品の世界を全うしたいと思います!!

 

そんな今月は、コロナ禍で歌舞伎座が再開して三度目の8月。

休演や代役、大変な事態に見舞われながら、歌舞伎座は幕を開け続ける努力をし、困難に真正面から立ち向かっています。

色々なご意見やお気持ちがあるのでしょうが、新作や珍しい作品が並ぶ中、幕を開け続けるという一念のもと、どう考えたって大変な代役を引き受けた先輩方や同輩の立ち向かうその姿、それを支える多くの人々の存在に、僕自身は素直に感動し、自分も頑張らねば!と強く思いました。

「エンターテイメントは人を元気にする力がある」

とは、使い古された表現ではありますが、作品のテーマや台詞などではなく、代役を引き受けた役者がその身を持ってダイレクトにお客様を励ましているのではないか、そうなっていたら嬉しいなと思う今日この頃です。

もちろん、これは不測の事態で、喜ぶべきことでは決してないことは重々承知の上。
何より、休養せざるを得ない方たちの気持ちを、僕は痛いほどよくわかります。

悲しかろう、悔しかろう、切なかろう、虚しかろうと、思えば思うほど先月の自分と重なり、言葉になりません。
こればかりは、当事者にしかわからないことだと断言できます。

でも、元気になったら戻れる、幕が開いている劇場があることがどれだけ励みになるか、そのことも凄くよく分かります。

そして、こんな状況下でも足を運んでくださる、お客様の存在こそが何よりも大きな支えであることは言うまでもないでしょう。

コロナ禍で3度目の八月を迎えられたことは偏に皆様のお力添えあってこそ。

4度目、5度目……
病が収まり、もう数える意味も必要も無くなるその時まで、引き続きお力添えのほど心からお願いいたします。

 

 

 

あ!ダメダメ!

 

 

コロナがおさまっても支えてくれなきゃ困りますからね!!(笑)
いつまでもいつまでも、私達はお客様のある限り幕を開け続けることでしょう。
末永〜〜〜くよろしくお願いいたします(*^^*)

 

 

 

 

米吉でした

 

◆続・かぶき特等席◆

◆中村橋之助のカルチャー幕見席◆

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コメント

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  • コメント (4)

    • たけちゃん☆
    • 2022年 8月 22日

    お忙しい中、投稿ありがとうございます。
    ここ最近の、コロナ感染者数の高止まりで、正直、歌舞伎座へ行くのを躊躇っています。
    今回のお役は、世話物の女房で初めてとの事。
    是非、歌舞伎座で拝見したかったです。
    休演や代役、大変な事態に見舞われながらも、皆さまが困難に立ち向かい、幕を開け続ける努力をされている様子に、心を打たれました。
    「エンターテイメントは人を元気にする力がある」、本当にそうだと思います!
    今まで、元気がない時、エンターテイメントに救われていますから。
    きっと、私だけでないと思います^ ^

    • 相変わらずの遅いお返事申し訳ないです。

      8月の大波を乗り越え、少しずつコロナも凪いできたのではないかと胸を撫で下ろしています。
      なかなか劇場に足を運びにくいという状況は一進一退で落ち着かず、私もとてもやるせない気持ちでおります。

      少しでも皆様のお力になるならば、存在の価値があるのかもしれません。
      何卒今後ともよろしくお願いいたします!

    • chie
    • 2022年 8月 29日

    暑さが少しやわらいできましたね。

    七月の公演中止の時に、いろいろな人がたくさんの思いを持ったことだと思います。八月、幕をあけつづけるんだという強い気持ちで皆様方が望まれているんだというのを感じて、これから先も歌舞伎を観ていきたいという思いがより強くなりました。戻って来られる場所があるというのは、療養している方にとって何よりの励みになりますよね。今回のことを通して、また歌舞伎が好きになりました。

    いつもながら、楽しくて勉強になるブログありがとうございます。そうなんだ!次そこ注目しよう!と次の観劇が楽しみになります。おさよさんのところあんな結末だとは、思わずとても苦しくなってしまいました。途中までは、このまましあわせになるのかなあと思った分、つらさが増してしまいました。おさよさんの悲しみが強く伝わってきました。

    来月の秀山祭も楽しみにしております。

    • 返事の遅れ、いつものこととお笑いくださいませ。
      本当にいつもすみません。

      すっかり朝晩は冷え、秋らしくなってまいりましたね。
      先月は本当に大変な中での興行で、どうにかこうにかやり続けることができたのは本当に凄まじいことでした。
      一日も早くこんなことのない公演を取り戻したいと思いながらの丸2年ですが、敵もなかなか手ごわいですね。

      佃夜嵐、珍しい作品でしたね。
      おさよも本当に辛い思いをしながら、悲しい結末が待っていて、本当にやるせないお役でした。

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